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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】  其の壱
 家の中に脚を踏み入れても、お彩は所在なげに三和土に立ち尽くしていた。伊勢次はお彩を安心させるように微笑んだ。
「そんなところに突っ立ってねえで、さっさと上がんなよ」
 それでもまだ逡巡を見せるお彩に、伊勢次は笑って肩をすくめた。
「何も取って喰ったりするわけじゃねえからさ」
 そう言いながら、伊勢次はお彩をしげしげと見た。いかにも老舗の呉服問屋の内儀らしく、お彩は上物の着物を着ている。この花の季節に合わせ、全体的に薄桃色で裾には舞い散る桜の花びらと流水文様が施されている。
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