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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】  其の参 
 市兵衛が番所にお彩の行方知れずを訴え出なかったのは、何も京屋の暖簾に傷がつくことだけを慮ったからではない。もし、お上の探索の手が伸びていれば、早晩、お彩は捕らえられていただろう。
 挙げ句、良人のある身で伊勢次と深間になったといわれもなき罪に問われ、厳しい処罰を受けることになったに相違ない。今の状況は、それが冤罪だ、いわれなきものだと訴えるには、あまりにお彩にとって不利であった。
 お彩は既に世にも認められた市兵衛の正式な妻である。その人妻が大店京屋のご新造が若い男と同棲し、女は身ごもっている。しかも、市兵衛は、たった四月(よつき)前に周りの反対を押し切ってまで、その女を京屋に迎えたばかりだ。
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