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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】  其の参 
 既に六月(むつき)になる腹の膨らみを隠しようはなかったが、それでもお彩は必死に両手で前腹の辺りを市兵衛の視線から庇うように遮っていたのだ。しかし、この男は端から気付いていたようだ。
「この子は私一人でちゃんと生んで育てます」
 お彩はともすれば押し寄せてこようとする恐怖を押しのけ、市兵衛の氷の瞳を真っすぐに見つめた。
―ここで眼を逸らしては駄目。
 心の中で自分を叱咤する。
 そう、お彩はいつでも強かった。伊勢次がお彩自身に彼女はけして根性なしではないと言ったように、お彩は外見には似合わぬ強さを秘めている。それは、風が吹けばすぐに折れそうなほど儚い花がけして風雨にさえ倒れぬような、しなやかな強さであった。
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