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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】  其の参 
 市兵衛の冷たい光を放つ眼がほんの一瞬、細められた。市兵衛は、ずっと昔、確かにこのような強い光を宿した眼を持つ女を知っていた。
その女もいつも凛として前を向いていた。
―たとえ他の誰が何と言おうと、知らん顔をして前を向いてれば良いのよ。良い、陽ちゃん、心に花を咲かせるの、一生かかっても良いから心にたった一つだけの自分の花を咲かせるのよ。
 その美しく優しい女に一途に恋い焦がれた少年時代が懐かしく蘇った。これまで〝氷の市兵衛〟と呼ばれてきた三十二年の生涯で、その初恋の女との想い出だけが市兵衛にとっては甘いときめきを伴うものだった。
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