パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第27章 第十一話　【螢ヶ原】　　其の参　

　現に、京屋へ入ってからというもの、お彩は京屋を飛び出すまで、伊勢次とは一度たりとも逢ってはいなかったのである。
　お彩は唇を噛みしめた。市兵衛の眼を見つめ、ひと息に言い切った。
「そうです、私はお前さまと夫婦(めおと)になった後も、何度か伊勢次さんと逢いました。この子はそのときに身ごもったんです」
　市兵衛が酷薄な光を宿した眼をお彩に向けた。冷たく蒼白い焔が燃えている。
　今、市兵衛が心の底から怒っているのが判った。氷のかけらを含んだような市兵衛の鋭い視線に、心の奥底まで見透かされそうになる。お彩は思わず眼を伏せた。