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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参
が、このまま、江戸にいても良いものだろうか。
伊勢次の胸に迷いが生じた。市兵衛ほどの怜悧な男のことだ、腹の子が市兵衛の子ではなく、伊勢次の子だという言葉をよもや、そのまま、鵜呑みにしているはずはなかろう。
お彩が市兵衛と所帯を持ち夫婦となった後まで、伊勢次と関係を持つような女ではないことを、市兵衛はとうに心得ているはずである。それが判らぬなら、江戸随一の大店京屋の主(あるじ)、凄腕と称される大商人(おおあきんど)の名が泣くというものだ。
今日のところは引き下がったが、いずれまた、お彩と腹の子を取り戻しにくるに相違ない。
伊勢次の胸に迷いが生じた。市兵衛ほどの怜悧な男のことだ、腹の子が市兵衛の子ではなく、伊勢次の子だという言葉をよもや、そのまま、鵜呑みにしているはずはなかろう。
お彩が市兵衛と所帯を持ち夫婦となった後まで、伊勢次と関係を持つような女ではないことを、市兵衛はとうに心得ているはずである。それが判らぬなら、江戸随一の大店京屋の主(あるじ)、凄腕と称される大商人(おおあきんど)の名が泣くというものだ。
今日のところは引き下がったが、いずれまた、お彩と腹の子を取り戻しにくるに相違ない。