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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
 あのときの伊勢次は、むしろ晴れ晴れとしたような表情で笑っていた。まるで何かを吹っ切ったような、長い物想いから抜け出したような。あれは、一つの決断を下して、せいせいしているような人の顔に似ていた。
 それにしても、妙なことを言うものだと訝しくは思ったものだ。
―いやねえ、まるでこれが最後のような言い方して。
 お彩は縁起でもないと伊勢次を睨んだ。
 これが最後―。
 お彩はハッとした。
 お彩は九カ月に入って、ますますせり出したお腹を抱えて、懸命に走った。とはいっても、まともに走ることなどできはしない。どんなに急いでも、せいぜいが早足を少しマシにした程度のものだった。
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