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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
「あ―、こんな、こんなこと」
 お彩はその場にくずおれた。あらゆる感情が一挙に溢れ出してきて、言葉さえ出ない。
 薄紅色の花むれの中にひっそりと浮かんでいた伊勢次は、西方浄土の蓮のうてなに抱(いだ)か
れて永遠(とわ)の眠りについたのだ。その死に顔には、苦悶は少しもなく、むしろ、微笑んでいるようにさえ見えた。
 伊勢次の死に顔が安らかであることが、むしろ余計にお彩の哀しみを誘(いざな)った。「花がすみ」で初めて出逢った日から、今日までの五年間のあいだの伊勢次の想い出が溢れ出す。
 屈託なく白い歯を見せる伊勢次、丸っこい童顔に照れたような笑いを浮かべる伊勢次、滅多に見せなかった怒った顔、そして、初めて膚を合わせた夜、一瞬だけお彩に見せた哀しげな顔―。
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