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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】 其の四
それでも、伊勢次は最後に言ってくれた。
―俺は幸せだったぜ。
昨夜の伊勢次の晴れやかな笑顔が今更ながらに切なく蘇る。
恐らく、あの時、既に伊勢次は死を決意していたのだろう。それでも、伊勢次は幸せだと言ってくれた。こんな酷(ひど)い仕打ちをした女に、幸せだったと。
お彩は伊勢次の亡骸に取りすがって、泣いた。まるで獣の咆哮にも似たその烈しい泣き声が朝まだ早い睡蓮の池に哀しく響き渡る。それは、聞く者の心を揺さぶらずにはいられないほどの慟哭であった。
―俺は幸せだったぜ。
昨夜の伊勢次の晴れやかな笑顔が今更ながらに切なく蘇る。
恐らく、あの時、既に伊勢次は死を決意していたのだろう。それでも、伊勢次は幸せだと言ってくれた。こんな酷(ひど)い仕打ちをした女に、幸せだったと。
お彩は伊勢次の亡骸に取りすがって、泣いた。まるで獣の咆哮にも似たその烈しい泣き声が朝まだ早い睡蓮の池に哀しく響き渡る。それは、聞く者の心を揺さぶらずにはいられないほどの慟哭であった。