この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】 其の四
伊勢次の死は、「事故死」として処理された。明け方、風流心を起こして近くの辻ヶ池に蓮の花見物に出かけた途上、不幸な事故に遭った。つまり、誤って脚をすべらせ自ら池に転落したとの見方であった。
だが、お彩だけは、伊勢次の死が事故による死ではないことを知っていた。眼の見えない盲人や足許の覚束ない年寄りならいざ知らず、二十五の伊勢次がいくら早朝だとて、弾みで池に落ちるとは到底考えがたい。
しかも、亡くなった時、伊勢次は酒を呑んでいたわけでもなく、判断力や認識力が普段に比べて鈍っていたとも思えなかった。
が、家中を探しても遺書のようなものは一切見つからず、自殺を思わせるような不審な挙措も全く見られなかったことから、結局は、村役人を初め岡っ引きも溺死として片づける他はなかったのである。
だが、お彩だけは、伊勢次の死が事故による死ではないことを知っていた。眼の見えない盲人や足許の覚束ない年寄りならいざ知らず、二十五の伊勢次がいくら早朝だとて、弾みで池に落ちるとは到底考えがたい。
しかも、亡くなった時、伊勢次は酒を呑んでいたわけでもなく、判断力や認識力が普段に比べて鈍っていたとも思えなかった。
が、家中を探しても遺書のようなものは一切見つからず、自殺を思わせるような不審な挙措も全く見られなかったことから、結局は、村役人を初め岡っ引きも溺死として片づける他はなかったのである。