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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
お彩が何も応えられないでいると、おきわは意味ありげに続けた。
「斜向かいのおさきさんから聞いたんだよ。眼も覚めるような別嬪さんがある日降って湧いたように伊勢次の許にやってきて、一緒に暮らすようになったって。それも、どうやら、その別嬪は伊勢次の子を宿しているらしいっていうじゃないか。あんたが来た当座は、この長屋はそれこそもうその噂でもちきりだったらしいよ。朴念仁の伊勢次には勿体ないような器量よし、よく働くし今時の若い者にしては気も付くし礼儀正しいし、それこそ天女のような娘だって、皆が言ってたそうだ。女には縁のない男だと思ってだけど、伊勢次もやるときはやるんだって、見直したとかどうとか、そりゃあもう、えらい騒ぎだったらしいね」
「斜向かいのおさきさんから聞いたんだよ。眼も覚めるような別嬪さんがある日降って湧いたように伊勢次の許にやってきて、一緒に暮らすようになったって。それも、どうやら、その別嬪は伊勢次の子を宿しているらしいっていうじゃないか。あんたが来た当座は、この長屋はそれこそもうその噂でもちきりだったらしいよ。朴念仁の伊勢次には勿体ないような器量よし、よく働くし今時の若い者にしては気も付くし礼儀正しいし、それこそ天女のような娘だって、皆が言ってたそうだ。女には縁のない男だと思ってだけど、伊勢次もやるときはやるんだって、見直したとかどうとか、そりゃあもう、えらい騒ぎだったらしいね」