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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
お彩は、力なく立ち上がった。おきわの怒りはもっとものことだった。病人をこれ以上興奮させてはならない。今日のところは諦めて、明日にでももう一度訪ねてみようと思い直したときのことだ。
おきわが小さな咳をした。お彩は気遣わしげな声をかけた。
「おっかさん、大丈夫ですか」
その時、お彩がおきわを「おっかさん」と呼んだのは何も深い理由があるわけではない。ただ伊勢次の大切な母親であるから、自然にそのように呼んだにすぎなかった。しかし、おきわには、かえって、そのことが癇に障ったらしい。
腹立たしげな声が返ってきた。
「私は、あんたのおっかさんなんかじゃない。馴れ馴れしく呼ばないでおくれ」
おきわが小さな咳をした。お彩は気遣わしげな声をかけた。
「おっかさん、大丈夫ですか」
その時、お彩がおきわを「おっかさん」と呼んだのは何も深い理由があるわけではない。ただ伊勢次の大切な母親であるから、自然にそのように呼んだにすぎなかった。しかし、おきわには、かえって、そのことが癇に障ったらしい。
腹立たしげな声が返ってきた。
「私は、あんたのおっかさんなんかじゃない。馴れ馴れしく呼ばないでおくれ」