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Memory of Night 番外編
第4章 Episode of AKIRA
もういいよ。それは別れを告げる言葉だ。
間近で彼女に視線を向けたまま、何も言えずにいる晃に、今まで恋人だった少女は静かな笑みを浮かべる。
「最後に……一緒に過ごせて良かったです。……先輩。ありがとうございました」
責めるでもなくなじるでもなく、涙を頬に伝わせたまま彼女は言った。
やめたはずの敬語を使い、付き合う前の呼び名に戻して。
黒い瞳は悲しげに細められているけれど、口元にあるのは微笑だ。
そのアンバランスさが、余計に痛々しかった。
そして、最後まで案じているのは自分の身ではなく晃のこと。
こんな時、自分がしてあげるべきことはたくさんあるだろう。
好きだとか愛してるだとか彼氏らしいセリフを並べ、彼女のかじかんだ手を握りしめて、か細い体を抱きしめて。
今までのようにそれらしく振る舞えばいい。
けれどもそのどれもを晃は放棄した。
もう無意味だと、わかっているからだ。
そっと押し出されたココアは、半端な温もりを手の平に伝えている。コートのポケットの中には、渡す筈だったプレゼントがまだ入ったままだ。
彼女の言葉を聞いても、心は変わらず冷静なままだった。
晃は缶を握りしめ、木枯らしの中を駆けていく少女が視界から消えていくのをただ眺めていた。