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花屋のあの人
第1章 ⒈始まりと出会い
「あ…」

斎は思わず声を漏らした。
咄嗟に手のひらで口を覆う。
1車線の道路を挟んだその先の彼には聞こえないだろう。
それでも少し恥ずかしくなり、立ち去ろうとするも
彼から目が離せず、その場に立ち止まり続けてしまった。
その時、

「っ…」

彼と目が合う。
不思議そうに瞬いたその瞳はすぐに柔らかく細められ、
一分かからず彼は斎の前へと近づいた。

「え、あ…」

間近で見る彼の姿にあたふたとする斎に
彼はくすりと笑った。

「僕のこと見てましたよね?花、好きなんですか?」
「え?」

彼の唇から紡がれた言葉に思わず聞き返す。
そして咄嗟に

「あ、そ、そうなんです」

と答えてしまった。
その斎の言葉に彼の表情はぱあ、っと明るくなる。

「やっぱり!男性ひとりで入るのは躊躇われますよね…
さ、店の中を案内します。行きましょう!」

と、少し早口に告げた彼は斎のジャケットの裾を掴み、
少し強引に歩き始めた。

「え、あ、…えっ!?」

斎は戸惑いながらも彼を追うように足を進めた。
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