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冷たい月を抱く蝶
第2章 温かい手のひら

「ケガはなかったか……?」
「あっ……」
「どうした?」
私は彼の腕の中で恐怖におびえた顔をした。そして持っている林檎を地面に落とすと、彼はそれを拾って私に話しかけた。
「……この林檎を?」
「……」
「やめなさい。こんな物を食べたらお腹をこわす」
「で、でも……」
「食べないと私、死んじゃうの……」
「お腹が空いて我慢できないの……」
「お願い……! その林檎をちょうだい……!」
私はすがる目で彼に頼み込んだ。
もうそこには、人間らしさなんてなかった。
もう生きることに精一杯で、私は空腹に耐えきれずにいた。すると男性は林檎をどこかに投げた。
「……いけない。それをしてしまったら、きみは人ではなくなってしまう。私が代わりに新しい林檎を買ってあげよう」
「……っ……ひっく……うっうっ………」
「きみはどうして裸足なんだ?」
「片足の靴はどうしたんだ?」
「両親はどうしたんだい?」
「うっ……うっ……ぐすっ……」
私はその人の腕の中で泣いてしまった。優しい声で話しかけてくるその声に、涙が止まらなかった。

