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お礼の時効
第3章 あなたを傷つけるようなことはしません
春季は事務所に戻り、ジャケットの内ポケットから鍵を取り出し眺めていた。

春季がようやく落ち着きを取り戻したとき、浅野は自分のジャケットの内ポケットからキーケースを取り出し、中の鍵を一つ春季に渡した。

「いつでも来てください。毎日遅い時間でないと帰れませんが、あなたがいるのなら必ず帰ります」

自分のもとに浅野は必ず帰るという言葉に、春季は一緒嬉しくなった。しかし心とは裏腹な言葉が出てしまう。

「行かないわ、あなたのマンションになんて」
「一緒に住んで欲しいとお願いしたはずですよ、春季」
「お断りしたはずですよ、浅野検事」
「疲れたときにでも来て下さい、そこで休んでいくといい」

どこまでも優しい口調を崩さない浅野の姿に、春季は素直になれなかった。
今までひとりで頑張ってきたのだ、今更他人に自分の弱い部分を見せられるはずもない。
今更ながら浅野に自分の心のうちを晒してしまったことを激しく後悔した。
傷つきたくない、その言葉は誰にも言わずに心の奥底に閉まっていた言葉だった。
その言葉を浅野に吐き出してしまった春季は、その時全くの無防備になっていた。

そんなとき告げられた浅野の言葉は、春季の心にまっすぐに響いて、心が揺れた。

あれほどもう恋愛は懲り懲りだと思っていたのにと、思わず春季は苦笑した。
自分を14年前から想っていた浅野の言葉に嘘はないだろう、信じたい、でも人は変わる。
あの男だって、最初は優しい言葉をかけてくれた、でも付き合いが長くなればなるほど、自分に過度の期待を寄せて結局それを通そうとしたではないか。
不安が春季を襲う、また同じことの繰り返しで傷つきたくない。

浅野を信じていいのだろうか、その手を取っていいのだろうか、堂々巡りだとわかっているのにと、春季はため息をこぼしていた。
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