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お礼の時効
第4章 せっかく捕まえたと思ったら、逃げられたんです
同じ頃、春季は事務所で今日のスケジュールを確認していた。

昨夜の行為で体はだるかったが、仕事は仕事だ。
今日は打ち合わせも入っているので、忙しくなることは確実だった。

打ち合わせの前に会議室へ入り、手元の資料を眺めてふと思い出してしまった。

昨夜浅野に抱かれて、久しぶりに男と肌を重ねた。
浅野は最初の頃こそ優しかったが、どんどん激しさを増して春季が泣いて懇願してもなかなか離してくれなかった。

「きれいだ、春季……」

全ての衣類を取り除かれた春季の体を、うっとり眺めて呟いた浅野の声を思い出した。
まるで浅野に背後から抱きしめられたような気がして、とたんに体が熱くなってきた。

忙しすぎて何も手入れなどしてこなかった自分の体は、浅野の目にどう映ったのだろうか。
食べてもなかなか太ることのない体質に感謝はしても、結局肌の張りや潤いは年齢とともに落ちてくる。
いくら若いころ体力をつけるためにスポーツクラブに通っていたとはいえ、筋力も少しずつ落ちてきたかに見える。
今更ながら自分の体を、男に見せることになるとは思いもしなかった。

抱きしめられた時あまりに気恥ずかしくて、今朝も逃げるように帰宅してしまった。
眠っている浅野にキスマークを残したのは、あれはほんの出来心で深い意味はない。
キスだって浅野が可愛く思ったからしたまでで、それ以上の気持ちはないはずだ。

春季が浅野の唇を食んだとき、浅野の体はそれに反応した。それに内心うれしい気持ちになったなんて絶対知られてはいけない気がする。弱みを見せるのは苦手だ。そもそも弱みなんて他人に見せていいものではない。特に浅野には見せたくない。

愛していると浅野は何度も告げた、それはこちらが気恥ずかしくなるほどだった。
浅野は自分への想いをストレートに伝えてくるのに、自分はそれに応えていない。
そればかりか浅野を好きかどうかさえもわからない。でも嫌いではない、嫌いならば体は自然と拒むからだ。
一ヶ月の付き合いだが、浅野はまっすぐな人間だということはわかる、だからこそ迷いなく自分に想いを告げている。

そしてあの浅野が熱に浮かされたように自分の名を呼び、自分を求める姿に煽られてしまうなんて。

どうしよう、また心が揺れる。

春季は浅野のことで頭がいっぱいになっている自分に、あきれ果てていた。
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