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お礼の時効
第6章 今日は私とベッドで過ごしましょう
和臣は執務室の窓際に立ち、物思いに耽っていた。

昨夜あのレストランで見かけた あの男(・)が春季のかつての恋人か……
下衆(げす)というのはあの男の為にあるような言葉だ、和臣は眉間に皺を寄せた。

春季を侮辱した言葉を耳にした瞬間、腹の底から怒りを覚えた。
気づけば体が勝手に動いていて、それを春季が止めた。
震える手で自分の腕を掴んだまま、春季は声を震わせてやめてと言った。

もしあのまま春季が止めなければどうなっていただろう。
間違いなく自分はあの男を殴っていただろう。
そうなると当然のことながら、問題になる。
今頃自分の上司にこっぴどく説教を受けていたかも知れないし、もしかしたら僻地への異動もあったかもしれない。
だが、そんなものはどうでもいいことだ、春季が侮辱されたことに比べたら。

春季は----
どうして、泣いていたのだろう。
店を出た後春季は泣きじゃくっていた。
まるで体の奥から溢れてくる何かを、必死に抑え堪えているように見えた。

考えたくもないが、あの男をまだ心のどこかで思っているのかも知れない。
そう思うと和臣は苦しくなった。

昨夜春季を抱いたとき、ようやくあの唇から自分の名を聞けたというのに、なぜこんなに不安なのだろう。

春季の中で弾けた後、彼女はまだ足りないとねだりしがみついて、自分の上に跨がり猛りを身のうちに収め乱れていた。

薄暗い寝室のルームランプに照らされた春季の姿は美しかった。
潤んだ瞳には熱がこもり、少し開いた唇から漏れる甘い吐息。
長い黒髪は乱れ、白い体は艶めかしくくねり、赤い唇に指を這わせたときに指先に感じた生暖かい舌の感触。
思い出すだけでまた欲しくて堪らなくなる。

あの様をあの男も見たのだろうか、それを考えると心が引き裂かれそうだ。

あの姿は自分だけのものだ、なのになぜこんなに……

心が痛い。

和臣はまたため息をついて、窓の外を眺めていた。
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