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お礼の時効
第6章 今日は私とベッドで過ごしましょう
春季は友人の祥子とランチを食べていた。彼女は大学時代からの友人で、いまは大手調査会社に勤務している。
彼女は一見たおやかな佳人なのだが、その実男勝りなところもあって気の置けない大切な友人のひとりだった。

「メールを見て驚いたわ。やっとうちに来てくれる気になったということでいいのかしら?」

以前から自分の多忙さに呆れ、祥子が働いている会社の企業法務のセクションへ誘われていたのだが、ずっと保留のままにしていた。
それは勤務弁護士として働いているため多忙なこともあったのだが、刑事から企業法務へ移ることの不安もあったからだった。

もともと日本の弁護士は民事と刑事の仕事がメインだったのだが、近年企業経営における 法令遵守(コンプライアンス)への要請は顕著に高まりを見せ、法令解釈の誤りが企業の存亡を左右することも少なくない。
また消費者や労働者の権利意識も向上し、紛争の解決が訴訟によりなされる傾向も強くなっていることもありって、こうした問題の対策として業務全般を法的観点から事前にチェックする必要が出てきた。
そのための企業内弁護士(インハウスロイヤー)の需要が多くなっているのだった。

祥子が言うには、現在自分の会社の企業内弁護士はいるにはいるが、それらは皆非常勤という形態で、できたら常勤できる弁護士がほしいということだった。

「でもできるかしら、企業法務って結構しんどいみたいだし」
「あなたなら大丈夫だと思うわ、春季」

働いている事務所の女性弁護士は、結婚を機に企業内弁護士としての道を選ぶものもいて、多少なりとも興味はあった。
だが現在抱えているものもあるし、早々にと根回しできたとしても退職まで3ヶ月はかかるだろう。

少し時間がほしいと祥子に頼み、食事を終えてレストランを出ると夕方になっていた。
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