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お礼の時効
第6章 今日は私とベッドで過ごしましょう
マンションに戻る途中、春季は空っぽの冷蔵庫のことを思い出した。

初めて和臣の部屋に来たときも感じたが、生活感がほとんどない部屋の様子に、恐らく寝るためだけに帰っていることが伺えた。
だから当然申し訳程度に置かれていた家電は使われている形跡もほとんどなくて、最たるものが冷蔵庫だった。
自分も大概冷蔵庫にものは置かないが、ここまで全く何も入っていない冷蔵庫など、家電売り場でしか見たことがない。
数日二人が食べられる量の食材を購入し、マンションへ向かおうと思ったが、思い浮かんだことがあって自分のマンションに足を向けた。

数日ぶりに自分のマンションに戻り、観賞植物といくつかの専門書をカバンにつめ込み、車に乗って和臣のマンションへ向かった。

和臣のマンションに着いて、買い求めた食材を冷蔵庫に入れながら、メニューを考える。

自分の料理の腕も大して誇れるようなレベルではなく、得意料理といえるものもない。
毎日一人で作るメニューも簡単なものばかりであったし、それで腹は満たされていた。
けれど相手がいる場合そうも言っていられない。最低限の食事はとってもらいたい。

段取りを考えながら、二人分の料理を作って和臣の分は冷蔵庫へ入れた。
これなら遅い時間に帰宅しても食べられるはずだ。そうして着替えを済ませ、シャワーを浴びた。

自分のマンションから持ち帰った観葉植物をリビングに置いて、少し水をやる。
その後ビールを飲みながら企業法務の専門書を読み、和臣の帰りを待っていた。

専門書を読み終えてリビングの壁にかかった時計を見ると、すでに日付が変わっていた。

今日も遅くなるだろう、ならば待たずに先に寝ようと食事が冷蔵庫に入っているとメモを残し、寝室のベッドに体を横たえ目を閉じた。

しばらくすると扉を開ける音がして、ぼんやりした意識の中和臣が帰宅したことを知った。
リビングであのメモを見たか気になったが、すでに意識は朦朧としていて夢うつつの状態だった。

人がいる気配というのは、以前は邪魔なものだったが、なぜだか今は安心に変わる。
和臣がいるということだけで、こんなに心地よいと思えることが不思議だった。

廊下を歩く足音が聞こえた、その音を聞いているうちにそのまま眠っていた。
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