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淳、光と闇
第20章 トランぺッター龍二、悲しみのレクイエム
次の日。
龍二は何もなかったかのように
樹里を見舞いに来た。
「樹里、気分はどうだい?」
「龍二。今日は少し気分がいいの…」
樹里は笑顔で折った鶴を龍二に見せた。
「また増えたね…」
龍二は樹里から鶴を受け取ると壁に
吊るしてある紐に通して
「あと何羽折ったら…」
そう言った。
「もう少しよ?」
「え??」
龍二が驚いて樹里を見る。
「龍二、もう少し折ったら
千羽になるの…」
「そんなになるか…」
「えぇ、もう少しで千羽になる。
そうしたら…私、旅立てるの…」
「樹里!」
「龍二…お願い!
トランペットを、
患者さんの死を悼んで
トランペットを吹くの
やめて!」
「それは出来ない…」
「龍二…」
「俺は患者さんが
逝ってしまうたびに
その人にトランペットを通じて
樹里の病気が良くなるようにと
願いを込めて吹いている。
だから…」
「やめて!!」
「樹里…」
「もう、あの物悲しい…
音色は聞きたくないの…」
樹里は顔を手で覆って
「私、長くないから…」
「樹里!」
二人は抱き合って泣いた。
「なんで?どうして?」
龍二はそう言って泣いた。
「龍二、もうこれ以上
自分を責めないで。
もうあなたは十分
私に尽くしてくれた。
だからこれからは私より
自分の将来を考えて…」
「じゅ、樹里!!」
「もう…来ないで!」
「そ、そんな…
嫌だ!!」
「お願い…」
龍二は病室を駆け出して
廊下で崩れ落ちた。