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淳、光と闇
第20章 トランぺッター龍二、悲しみのレクイエム
「龍二君…
ここにいる省吾さんが君の
トランペットに大いに感動して
アメリカに手配してくれた。
私一人では実現できなかった。」
龍二は省吾を見た。
省吾は
「君の心の籠った音色が
わしを動かした。
それにあの音色は悲しすぎる。
ここにいる由美君や
わしの可愛い
淳が悲しい思いをするのを
わしは我慢できなかったんじゃよ。」
さゆりが龍二に
「すぐに支度をしてください。
時間がありません。」
「は、はい!!」
こうして樹里はアメリカに旅立った。
龍二は次の週に仕事を
片付けてアメリカに渡る。
樹里はアメリカに渡る前の日に
999羽目の鶴を折って詰所に届けた。
「後一羽ですが…
一羽は…私、生きて帰れたら
最後の一羽を折って完成させます。」
そう言って淳に
999羽の鶴を差し出した。
「待ってるわよ。
必ず生きて帰って。
最後の一羽を折るのよ?」
「はい…」
しかし…
樹里が最後の一羽を
折る事はなかった。
「間に合わなかった…」
省吾は悔やんだ。
あのままなら、
樹里は最後まで龍二のそばで
人生を全うできた。
悔やむ省吾を由美と淳は
「旦那様…
旦那様の判断は
間違っていませんでした。
日本に残れば
あの千羽鶴は
完成しなかった。
決して…完成しなかった。
でも、アメリカに行けば
千羽鶴を完成させる
可能性はあった。
旦那様、
気を落とさないで…」
二人はがっくりと
肩を落とす省吾を気遣った。
樹里はアメリカで短い生涯を終えた。