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砂の人形
第3章 過去の残り火
 グリゴーのあざ笑う声も気にならなかった。テルベーザは、私の背中にぴったりくっつくようにして私を抱きかかえて、壁にもたれかかっていた。彼がこんな風に我を忘れたようになってしまうのは、 初めてのことだった。

「ですが、立派に務めを果たしてくださった。サルーザ様もお喜びになるでしょう」
「全く。この一年で姫様も随分成長されましたからなぁ」

 双子は寝台を離れ、低く笑いながら部屋を出て行った。

「これならもう、心配もいりませんねぇ」

 あなたたちなんかに心配されたくない。言葉には出さなかったけど、私は二人の出て行った扉を睨みつけた。夕方が近づいて、部屋はいつもより薄暗く感じられた。

「申し訳ありません」

 ようやくテルベーザが口を開いた。まだ呼吸は乱れていて、苦しそうだった。

「すぐに、きれいにしますから」
「いいの。もう下がってちょうだい」

 私は、枕元に置かれた時計を確認した。すでに三時を回っている。まだ起きるには早すぎる時間だけれど、私の予定時間はとっくに過ぎている。

「しかし」
「これ以上、あちこちいじり回されたくないの。ほっといて」

 怒っているように聞こえたか、不安だった。体が触れ合っていると、本心まで伝わってしまうようで怖かった。テルベーザが腰を引く。ずるりと抜け落ちる感覚にみっともなく声を上げそうになって、私は唇を噛み締めた。テルベーザの腕がほどける。名残惜しくも感じた。彼がああやって私を抱きしめたことは、今まで一度もなかったから。

「……姫様」

 テルベーザは自分の体を敷布で拭うと、それを丸めて抱え込んだ。

「何を考えているんですか?」
「別に、何も」
「では裏で待たせていた駱駝は何です?」
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