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砂の人形
第5章 引力

「中に入っていてください。砂を浴びてきます」
「分かった」
「姫様も、明日には浴びてください。城と違って、ここには水はありませんから」
「分かったってば。早く行きなさいよ」

 そんなこと、言われなくたって分かってる……ただ、私は昔から砂浴びが苦手だった。普通の女の子は一日に二回は砂浴びをするらしいけど。あの、髪の毛に引っかかる感じや、足の指にまとわりつく感じが苦手だった。
 テルベーザがいなくなると、私は毛布にくるまった。窓掛布一枚を隔てただけの砂地はとても冷たくて、お尻がじんとする。二枚しかないけど、一枚ずつじゃとてもしのげそうにない。

 そう言ったら、テルベーザは抱きしめて温めてくれるかしら。さっきみたいに。すごく嬉しかったのに……同じくらい恐ろしかった。テルベーザはたぶん分かってる。私が彼を愛していること。彼が情に訴えてきたら、私はきっと心を折られてしまう。ああやって強引に抱きすくめられて行くなと囁かれたら、私はどこにも行けない。それを知った上で、お父様から私を足止めするよう命令を受けているのかも。どうしてもそう疑ってしまう。テルベーザのことは、本当に何も分からなくなってしまった……。

 ぼんやりしているうちに、テルベーザが砂を踏む音が近づいてきた。

「入りますよ」

 一声かけてから、テルベーザが天幕に入ってくる。彼は特別背も高くないし、騎士団の中では細身な方だった。それでも、この天幕の中ではとても大きく見える。膝を付いて頭を屈めないと天井にぶつかってしまうし、丸まらなければ、とても横にはなれない。

「ちょっと狭すぎるみたい……」

 四つん這いで足の先まで入ると、テルベーザの前髪が鼻先をくすぐって、私は逃げるように身を縮めた。入り口の布が下りて、月光が遮られると、天幕の中は真っ暗になった。
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