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砂の人形
第9章 耳をふさいで
「あなたって、いつもそう」

 あの時と同じように、薔薇色の頬に涙が落ちた。

「どうして、そうやって私を傷つけようとするの?」

 だって僕も傷つけられたから。同じようにしてやらないと気が済まない……違う、傷つく姫様を確かめて、同じであることに安堵してる。そういう歪んだ方法でしか、繋がりを持てないから。

「分からない? ただでさえ不安なのよ。砂漠を歩いていると、いろんな考えがわいてくるの。お父様が今、何を考えてらっしゃるか。私の話を聞いたペテ様が、どんな反応をするか……それに、アルムカンの国民。私がこれからすること、みんな、分かってくれるかしら? それとも私を責めるのかしら。そもそも、ペテ様は近頃いらっしゃらないでしょ? 私のことはもう忘れているのかも。……ねえ、これだけでも手一杯よ。この上、あなたのことで悲しませないで」

 そんなに怖いなら、ルニルカンなんかに行かなければいい。ずっと僕と、この砂漠にいてよ。美しい衣服や装飾に飾られてきた白い肌を埃まみれにして。乾いた空気と焼き付く日差しの下で、その穏やかな夜のような瞳もいつか、白んで灰になってしまうだろう。

 僕が怖いのはそれだ。砂漠の過酷さがこの人から、僕の宝物を奪ってしまうこと。目の前で壊してしまうよりは、どこか遠い北の大地で輝いてくれている方が、僕には嬉しい……そのはずだ。

「嘘でも良いから、好きだって言えばいいじゃない……」
「気持ちがなくても行為はできます。そんなに不安で寝付けないなら、手短に済ませましょう」
「結構よ! そんな言い方、屈辱的だわ!」

 逃げようとする手首を掴んで、砂の上に組み敷く。砂避けをはだけて服を剥き、乳首をつまむとすぐに姫様は甘い声を上げた。

「素直なお体ですね」
「やだ……んっ! 離して!」
「手、必要ですか?」

 口元へ手を差し伸べると、姫様は思い切り、僕の指を噛んだ。思わず乱暴に振り払う。その指先が、姫様の頬を打ってしまった。

「っ……姫様、もう僕の手は要らないようですね」
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