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潮騒
第8章 正一郎の過去 ー引潮ー
「タエの代わりに来た嫁…それも身体の弱いお姉ちゃんの代わりにな。それが更に昔の女に重ねられてただけやなんて、傑作すぎて笑えるわ…」

菊乃の目からは、言葉とは裏腹に涙がポロポロと溢れた。正一郎はサキゑの事は知らないようで、眉根を寄せ、怪訝な顔を見せた。

「声が似てるって言うてたな。頭ん中で昔の女想像しながら私のこと抱いとったんか? ひとを馬鹿にすんのもええ加減にして‼︎」

菊乃の悲痛な叫びに正一郎が額を押さえ、かぶりを振る。

「…確かにちょっと思い出すことはあったけど、お前はお前や。トキエと違う。頭の中で他の女想像しながら抱くような器用な真似、俺は出来ん。」

「じゃあ、私を抱いたんは…子を作らんとお義母さんが五月蝿いからか? それだけ? やっぱり道具としか思てないんやないか!」

「あんまりデカい声出すな、階下に聞こえる。トキエとの事は…俺が悪かった…久しぶりに会うて…その、な。アレや。けど、結婚してからトキエと会うたのは、この間が初めてやし、寝たわけでもない。」
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