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白薔薇の眠り姫 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 白薔薇姫とワルツを
「…帰国中くらいずっと側にいてやりたいのだがね…。普段はあの子は一人ぼっちだ。…母親を病いで亡くしてもう三年にもなる…」
そう言って北白川伯爵はホールの壁に飾られた亡き伯爵夫人のポートレートを見つめる。

白いドレスを着た三歳くらいの梨央を膝に抱き、微笑む一人の貴婦人のポートレート…。
…白い嫋やかな花のような臈丈た美しい貴婦人だ。
皇室と縁続きの公家の姫君だったというのも頷ける気高い美しさが写真でも見て取れる。
…梨央さんは、お母様似だな。
縣は伯爵夫人のポートレートに梨央の面影を重ねた。
…梨央さんも成人されたら、このように麗しい貴婦人になられるのだろうな。
…今でも十分お美しいけれども…
縣は心の中で呟いた。

「伯爵は重責を担われる大使でいらっしゃるのですから、ご帰国中もご多忙は止むを得ませんよ。…梨央さんももう少し大きくなられましたらお分かりになられるでしょう」
伯爵は縣を頼もしそうに見上げる。
「…君は優しいね。しかも聡明で頼もしい。縣が羨ましいよ。こんなに素晴らしい息子がいて…」
「梨央さんは一人っ子でいらっしゃるから…ご兄妹でもいらっしゃればお寂しさも違ったかも知れませんね」
ふと、伯爵は遠い目をした。
「…梨央に兄妹…」
「?どうされましたか?」
伯爵は首を振り、苦笑する。
「いや、何でもない。由無し事だ…」

傍らの月城が遠慮勝ちに声をかける。
「…旦那様、お車の支度が整いました」
「今いく。…それでは礼也君、梨央を頼んだよ。一緒に午後のお茶でも飲んで楽しい話でもしてやってくれ」
そう託すと伯爵は、帽子を被りながら玄関を出て行った。
「行ってらっしゃいませ」
縣は月城と並んで、伯爵の乗ったメルセデスを見送る。

メルセデスが見えなくなったところで、月城に尋ねた。
「…で?…梨央さんはどうしてご機嫌斜めなんだい?」
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