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白薔薇の眠り姫 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 白薔薇姫とワルツを
「さあ、ここなら誰にも見られずにゆっくりレッスンできますよ?」
…着いたのは、屋敷の温室だ。
色とりどりの薔薇園の周りはちょっとしたプロムナードになっていて、離れて美しい薔薇達を眺められるようになっている。
上質な籐で出来た長椅子もあり、温室に案内された客はゆっくり腰掛けて、薔薇を愛でることが出来るのだ。
温室は一年中、温かな春のような温度に保たれている。
縣は伊太利製のジャケットを脱ぎ、籐の椅子の背にかける。
梨央が白薔薇に近寄り、嬉しそうに花弁を撫でる。
薔薇の香気と梨央の林檎の花のような香りが重なり、縣をなんとはなしにドキドキさせる。
月城は蓄音機をマホガニーの小机の上に乗せ、手際よくレコードをセットし、螺子を巻く。
…静かに流れて来たのは、ヨハン・シュトラウスの美しき青きドナウだ。
縣は、梨央と向かい合うと恭しく一礼し、手を差し伸べる。
「…お手をどうぞ、お姫様」
梨央は恥ずかしそうに、しかしきちんと優雅にスカートをつまみ、膝を折ってお辞儀する。
その姿は小さいながらも気品溢れる貴族の令嬢だった。
…二人が手を取り合うと、月城はそっと一礼し、静かに温室を後にした。
月城の目に、密やかな羨望と嫉妬の色が滲んでいたのを縣は見逃さなかった。
…ちょっと可哀想だったかな…。
縣の胸は少し痛んだ。
僕が月城の立場だったら…
美しく清らかな小さな主人…世話をすることは許されているが、触れ合うことは決して許されていない…
切ない片恋…。
いや…
縣は自嘲気味に苦笑する。
片恋なのは僕も同じだ…。
梨央さんはまだ僕に何の感情も持ち得ていない…。
お父様のお優しいお友達…くらいな認識だろう。
…いつか、梨央さんは僕に恋してくれるだろうか…。
普段は女性に対して余裕綽々なのに、こと梨央に関しては全く自信を持てない。
いつも、不器用な少年のような気持ちになってしまう。
梨央が緊張したような面持ちで、縣を見上げる。
縣は優しく笑いかける。
…梨央さん、僕を好きになって…。
「力を抜いて、ステップは僕の真似をしてください。ゆっくり…そう…ワンツースリー…ワンツースリー…」
梨央の手の温かさ…林檎の花の香り…
…僕の初恋の小さな少女…。
…時がこのまま止まってくれたらいい…。
縣は梨央の手を愛おしむように握りしめる。
…着いたのは、屋敷の温室だ。
色とりどりの薔薇園の周りはちょっとしたプロムナードになっていて、離れて美しい薔薇達を眺められるようになっている。
上質な籐で出来た長椅子もあり、温室に案内された客はゆっくり腰掛けて、薔薇を愛でることが出来るのだ。
温室は一年中、温かな春のような温度に保たれている。
縣は伊太利製のジャケットを脱ぎ、籐の椅子の背にかける。
梨央が白薔薇に近寄り、嬉しそうに花弁を撫でる。
薔薇の香気と梨央の林檎の花のような香りが重なり、縣をなんとはなしにドキドキさせる。
月城は蓄音機をマホガニーの小机の上に乗せ、手際よくレコードをセットし、螺子を巻く。
…静かに流れて来たのは、ヨハン・シュトラウスの美しき青きドナウだ。
縣は、梨央と向かい合うと恭しく一礼し、手を差し伸べる。
「…お手をどうぞ、お姫様」
梨央は恥ずかしそうに、しかしきちんと優雅にスカートをつまみ、膝を折ってお辞儀する。
その姿は小さいながらも気品溢れる貴族の令嬢だった。
…二人が手を取り合うと、月城はそっと一礼し、静かに温室を後にした。
月城の目に、密やかな羨望と嫉妬の色が滲んでいたのを縣は見逃さなかった。
…ちょっと可哀想だったかな…。
縣の胸は少し痛んだ。
僕が月城の立場だったら…
美しく清らかな小さな主人…世話をすることは許されているが、触れ合うことは決して許されていない…
切ない片恋…。
いや…
縣は自嘲気味に苦笑する。
片恋なのは僕も同じだ…。
梨央さんはまだ僕に何の感情も持ち得ていない…。
お父様のお優しいお友達…くらいな認識だろう。
…いつか、梨央さんは僕に恋してくれるだろうか…。
普段は女性に対して余裕綽々なのに、こと梨央に関しては全く自信を持てない。
いつも、不器用な少年のような気持ちになってしまう。
梨央が緊張したような面持ちで、縣を見上げる。
縣は優しく笑いかける。
…梨央さん、僕を好きになって…。
「力を抜いて、ステップは僕の真似をしてください。ゆっくり…そう…ワンツースリー…ワンツースリー…」
梨央の手の温かさ…林檎の花の香り…
…僕の初恋の小さな少女…。
…時がこのまま止まってくれたらいい…。
縣は梨央の手を愛おしむように握りしめる。