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薔薇色の鎖
第1章 囚われる
あの人との出会いは、本当に偶然だったのだろうか?

今でも偶然だったとは思えない。

誰かが仕掛けた罠か、または彼が仕組んだ罠のように思えてならない。

そうでなかったとしたならば、運命だったのか必然だったのか・・・今でも偶然にあの日あの時私のところを通りかかっていなければ、きっと人生で関わる事もなかったくらいの偶然だと思う。

その一瞬で、あの眼鏡の奥の冷たい瞳に私は捕らわれてしまったんだ。

長身で細身で線が細い身体に抱きとめられ、私は心を揺さぶられてしまった。

触れた瞬間に、私は彼に全て囚われてしまっていたんだと思う。

理屈なんてない。

多分あれは・・・本能で感じ取った何かなんだと思うの。

そうあれは、春の暖かい桜が舞う夜の事だった。

桜の花に仕掛けられた、甘い罠だったのかもしれないけれど、現実はそんなロマンチックなものじゃなかった。

そう、きっとあの時間にあの川沿いの道を歩いていなかったら。

あの時間に、あの男が私の後ろをつけて私を襲ったりしなかったら。

そして偶然にそれを見かけて、彼があの男を警察に突き出したりしなかったら。

今もこうして、彼に囚われている事はなかったのかもしれない。

そのくらい。

あまりに出来すぎた、全て偶然とは思えない月が綺麗な夜だった。
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