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淫欲の果てに。人妻・怜香32歳の記録
第2章 漆黒の扉に導かれて
「ここは、良いお店ですよ。皆瀬くんみたいな元気のある若いバーテンさんが入ってからはまた雰囲気も少し変わって、何度も来たくなってしまうんですよ。」
「皆瀬さんは、最近入られたんですか?とっても若そうですよね。」
「といっても、僕ももう今年で27です。姪っ子に胸張ってお年玉をあげられる大人になれるよう、がんばりますよ。」
「皆瀬くん、27になるのか。ここで働きはじめたのは半年くらい前だったかな、思い出した、まだ寒い時期だったかな。」

冬木と名乗るこの男性は、落ち着いた優しさのある口調で話をする。一見すると細めの体型をしているものの、仕草やたたずまいにどこか美しさがあり、とても落ち着いた様相をしている。
少し長さのある前髪に大きな瞳が印象的で、濃いグレーのジャケットにブラックのシャツとパンツを合わせ、男性にしては細めのシルバーの腕時計を自然につけこなしている。
どこか年齢がわかりにくい印象だが、そのようなことを突然聞くのも野暮な気がして、喉から出かけた質問を飲み込む。

私はいつも、中途半端なことをしてしまいがちな女なのだ。言いたいことがあってもそれを上手く言葉にできず、結局はきっかけを逃してしまう。
隣の梨美は、皆瀬さんとお酒の話で盛り上がっている。初めて訪れたこのお店で、なんだか急にどう振る舞ったらいいのかわからなくなり、またグラスを傾ける。

脚を組み替えたり、グラスをもてあそんだりしているうち、カウンター越し、ずらっとお酒が並ぶ棚に目を向けると、その一角に並べてある本に目がとまった。
「外国の、お城…」
『世界の古城写真集』というその本が気になり、思わず声に出てしまったことに一瞬焦る。皆瀬さんがすぐにその本を手渡してくれた。

「うちのオーナー、本が大好きで。カメラマンのようなこともやっていたみたいで、写真集とかもいくつか置いてあるんですよ。」
皆瀬さんが教えてくれる。テーブル席のカップルと何やら話し込んでいる様子の、もう1人の妙齢のバーテンダーがどうやらこのバーのオーナーらしい。
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