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淫欲の果てに。人妻・怜香32歳の記録
第5章 青黒い部屋 淫蕩の血
「こっちへ。」
道を曲がろうとしたとき、Signalを出てからはじめて冬木は口を開いた。
あの。どこへ向かっているんですか?言おうとしては、言葉を飲み込む。なぜ、そのくらいのことが聞けないのか。やっぱり、今の私はおかしい。この男性と2人きりになったとたん硬直し、気安く質問すらできない。
先程の店内では普通に会話をしていたとはいえ、1週間前、あんなことをされた男についていくだなんて、酔狂にも程がある。

たどり着いたのは、ブルーグレーの外観がきれいな3階建てのマンションの一室だった。冬木が鍵を取り出し、扉を開ける。
私は、地獄への扉を叩いてしまったのだろうか?
それとも、行き着く先には天国があるのだろうか?

「入って。ここには誰もいないから。」
「あ…、はい…」

もたもたしながら靴のストラップをなんとか外し、足を踏み入れる。ひんやりとした床の冷たさがストッキング越しに伝わる。
ここは、どこなんですか?なぜ私をここに?聞きたいのに、まだ口に出せないでいる。
何を、怯えているんだろう。もう、入り込んでしまったというのに。


部屋には3室あり、どれも扉が閉まっている。冬木が1室を明けると、そこは薄暗く、青黒い照明が静かに室内を照らしている。1人掛けのソファにローテーブルと小さなクッションが2つ置いてあるだけの、シンプルな部屋。

「座って。そこへ。」
「あ、はい…」
「大丈夫?疲れたり、してないかな。ここは、俺が借りている部屋だから。」

Signalにいる時と優しい言葉に変わりはない。しかし、いつのまにか冷たさの混じった瞳からは、感情がまったく読み取れない。

「両手を、後ろに回してみて。」
「え…、あ…」

突然、淡々とした表情の冬木から放たれる言葉。従う以外の選択肢は、既になかった。
たじろぎながら両手を後ろに回し、自分の中の不安を抑え込むように自らの両腕を抱える。
背後から冬木の手が伸び、正座をした私の太股の表面を、そっと撫でた。ストッキング越しに指先で撫でられ、くすぐったいような恥ずかしいような気分になる。

「えっ…!ぁ…」
片方の手が首筋に触れたと思うと、円を描くように、耳たぶを刺激される。耳の中まで指が伸びた瞬間、首に暖かいものを感じた。容赦なく降り注ぐ、首筋への口づけ。男性の香りをダイレクトに感じ、息が漏れる。
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