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淫欲の果てに。人妻・怜香32歳の記録
第7章 内側からの崩壊
4曲目がはじまる。静かにステージへ現れたのは、吸い込まれるように黒い燕尾服を着た、冬木如人だった。彼がピアノの前に座った瞬間、空気が張り詰め、凍る。

凍りついた静寂を、ショパン遺作のどっと迫りくるような悲しいメロディが破ると、頭を打ち付けられるような衝撃が走った。悲しげな曲なのに、冬木如人が奏でるショパンははっきりと力強く、そして美しい。美しいのに、曲が持つ悲壮的な感情も時おりぐいぐいと感じさせる。

繊細な音と悲壮的な音とが交互に襲いかかり、くらくらする。倒れそうになりながらも、一音も聴き逃すまい、と必死に耳を傾ける。

身体に染み渡る、冬木如人の音。
彼の指が奏でるピアノの旋律が耳から入り込み、麻薬のように脳を蕩けさせる。曲が終わってもなお、感情が悲鳴を上げていた。

彼がステージを後にしてからも、私は身体を制御できず、惚けたように座席から動くことができなかった。
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