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第10章 中毒者の顔

タクシーを呼び止めて乗り込む。指定されたシティホテルのロビーへ向かうため、行き先を告げる。
冬木様とのことは、誰にも知られてはならない秘事だ。今まで何でも相談してきた梨美にだって、言ってはならない。
たとえどんなに激しく感情が動いて、言葉に出したくなっても。苦しくても、嬉しくても。

車窓から見える街は、うだるような夏の暑さに覆われかけている。
歩道を歩くビジネスマンやスマホを見ている若い女性、並んで歩くカップル、ベビーカーを押す母親…通り過ぎてゆくたくさんの人々のうち、どれだけの人が、世間一般に歓迎されるような幸福を得て、道徳的な毎日を送り、一点の曇りもない人生を全うするのだろう。

「ありがとうございました、お気をつけて。」
シティホテルに到着し、支払いを終えるとロビーへ向かい、空いていたソファへ座る。