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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

「いい?」

 嫌だったら拒否して、と里見くんは言った。

 ……嫌じゃないの。困ったことに。

 拒否をする理由ならいろいろある。まだ早いとか、梓に釘を刺されているからだとか、あと一年待ってほしいだとか。

 でも、嫌か嫌じゃないかと聞かれたら、嫌じゃない。

 里見くんから求められることは、嫌じゃない。できれば、受け入れたいと思っている。
 でも。でも――。

「里見くん」
「はい」
「キスだけで我慢できますか?」
「……男の生理現象としては無理です。でも、我慢しろと言われるなら……非常に辛いですが、我慢します」

 問題を先送りにするべきじゃない。生徒にも言っていることだ。私もよくわかっている。
 けれど。
 今は、まだ、勇気が出ない。

「あの、あと一週間、我慢できますか?」

 顔なんか上げられない。真っ赤だ。
 絶対真っ赤だ。
 恥ずかしくて死にそう。

 里見くんは小さく「一週間」と呟いて喉を鳴らす。
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