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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

 土曜の夜。六コール目で、相手が出た。

「夜分恐れ入ります。もう飲んでいらっしゃいましたか?」
『飲んでる、飲んでる。なんだ? 何かあったか?』
「生徒のことではないのですが……その、里見先生のことで」
『一週間で落とされたか! やるなぁ、里見のやつ!』

 ギャハハ、と笑い声が響く。おじいちゃんにつられたのか、お孫さんの笑い声も届く。
 団欒中、申し訳ありませんねぇ。

「……佐久間先生」
『ハハハ、すまん、すまん。で、里見の何が知りたい? 学園長代理から依頼されている件か?』

 梓から依頼されていることを知っているなら、話が早い。

「それもあります。彼のことで、佐久間先生が知っていることをすべて教えて欲しいんです」
『あー……わかった。明日は模試の監督だろ? 俺も部活動が昼で終わるから、待っててやるよ。なぁ、明日は俺いなくても大丈夫だよなぁ?』

 明日どころかあなたは毎日いないじゃないですか、と奥様の呆れた声が聞こえてくる。
 ほんと、団欒中に申し訳ありません。でも、この時間じゃないと佐久間先生に繋がらないので。

 佐久間先生に感謝しつつ、通話が終了したスマートフォンをテーブルに置いて。
 盛大なため息を吐き出しながら、ソファに突っ伏す。

 長年付き合った恋人と別れてまだ少ししかたっていないのに、新しい恋人だなんて……私、やっぱり淫乱なのかな。
 そんなことを考えながら、里見くんとのキスの感触を思い出しているのだから、やっぱり私は淫乱で間違いないんだと思う。
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