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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

受験生にとって六月の模試は、夏休みにどれだけ頑張らなければならないかを認識するための指標となる。
志望大学の判定はどう出るか、自分の偏差値はどれくらいか、それを確認するためのものだ。
受験生にとっては大変なものだけれど、試験監督の教師にとっては、正直に言うと退屈の極みだ。
何十分、何時間も、問題用紙を配布・答案用紙を回収して、生徒たちが不正をしていないか目を光らせて、暇を紛らわしながら教室にいなければならない。
英語、国語、社会、数学、理科……社会が終わった時点で、生徒の半分は帰るから、理系の子たちが終わるまで、あと半分。休憩時間中に答案用紙をまとめたあと、もう一人の試験監督官の先生と手早く昼食を摂る。
答案用紙を入れて送る封筒の準備をしたあと、朝、職員室の私の机に置かれていたファイルを手に取る。
佐久間先生の豪快な文字で「見とけ」と書かれた付箋が貼り付けられたファイルの中身は、里見くんの模試の結果だ。
四年前、里見くんが受験生だった頃のものを佐久間先生が持っていたのにも驚いたけど、内容を見て本当に驚いた。
「A判定……」
第一志望の誠南大学は、ほぼBかA判定。夏休み前も、夏休み後も、センター試験直前も。
これだけ判定が良ければ、国語の勉強なんてしなくても、余裕を持って受験に臨めたはずだ。
いや、模試でこれだけ点数が良ければ、普段の中間試験や期末試験はもっと点数が良かったのではないか。
つまり、推薦を狙えたのではないか――一般受験をする必要性がなかったのではないか。
私は里見くんの国語の点数しか知らなかった。国語は確かに点数が伸びている。けれど、英語も数学も、点数は良い。
里見くんは、かなり優秀な生徒だったのではないだろうか。
「篠宮先生、行きましょうか」
里見くんの模試の結果を机の中にしまい、問題用紙を持った同僚についていく。
「そろそろ梅雨入りですかねぇ」
「そうですねぇ」
渡り廊下から見える灰色の世界。自転車が使えないから雨が続くのは嫌だなぁ、そう思いながらC棟へ向かう。
時間はたっぷりある。佐久間先生が見せてくれた里見くんの模試結果のことを、過去の里見くんの意図を、考えよう。

