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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

職員室の隣の会議室。普段、教育実習生たちが使っている部屋で、佐久間先生と向かい合う。
「どういう奴だったかと聞かれても、なぁ」と佐久間先生は前置きして、模試結果を指差した。
「これは、生徒のためにと、里見が俺に渡してくれたやつだ。勉強すれば、学力は上がるし、継続できると示してくれる資料だからな」
「……そう、ですね。驚きました」
「別に、国公立の理工学部でも良かったんだよな、数学の教員免許を取るだけなら。国公立も、判定は悪くないだろ」
私は頷く。
確かに、誠南大学だけでなく、記載された他の志望大学の判定も悪くはない。BやCだが、伸ばそうと思えばもう少し点数は伸ばせたはずだ。
そういえば、里見くんの志望校のリストの中に、私の出身大学が含まれていて驚いた。
誰かから聞いたのだろうか。私が喋ったのかもしれないが、覚えてはいない。
「でも、里見の目的はうちに採用されることだから、誠南大学への進学を決めた。しかも、推薦ではなく一般でな」
やっぱり。
推薦を得られるくらいの成績だったというわけだ。
なぜなのか、聞かなくてもわかる。
里見くんは、受験の大変さより、私と国語準備室で過ごす時間を優先させたということ。
病的なまでの執着心に、背筋が凍りそうになる。
嫌悪感や拒絶反応はないけれど、私は大変な人から好かれてしまったのだなと実感するには十分すぎる材料だ。
「誠南大学を卒業して、学園に採用された教師は多い。それに、大学には俺の後輩がいるから、多少顔が利くからな。あいつは、俺の知る限り最適な選択をしていると思う」
佐久間先生にそこまで言わしめる里見くんを、心底怖いと思ってしまう。用意周到すぎてやっぱり怖いわ。
「で、それらが意味するのが何なのか、お前ならもうわかるだろ」
「……はい」
「しの、受け入れたら、逃げられなくなるぞ。それだけは忠告しといてやる」
「……はい、わかっています」
既に覚悟を決めてしまったことは、まだ佐久間先生には伝えるべきではないだろう。

