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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

 職員室をあとにして、三階の国語準備室に向かう。今朝のコーヒーは何にしようかな、と考えながらプレートを「在室」にひっくり返し、鍵を開けて部屋に入った瞬間に。

「小夜先生」
「っひゃあ!」

 背後からいきなりとか、本当に心臓に悪いからやめてほしい。ガチャリと音がして、内側から鍵がかけられたと思ったときには既に、里見くんが正面からぎゅうぎゅうと私を抱きしめていた。

「人目がないところで、とは言いましたけど……ビックリさせないでください」
「すみません。ちょっと、事情が変わったもので」
「え?」

 上を向いた瞬間に落ちてくる唇。
 何度か唇が触れる。
 下唇を食まれたあと、舌が歯の隙間から侵入りこんでくる。

 舌を絡ませると、甘い味。
 ジュースか何かの味。
 美味しい、と舌にちょっと吸いつくと、「もっと」と里見くんが笑う。

「もっと求めて」
「っは、ん」

 朝からこんなディープなキスをするのもどうかと思う。
 本当に、どうかしてる。

「んん、っ」

 胸をトントンと押して、やめて、と合図を送る。里見くんが名残惜しそうに唇を離し、舌を抜き去る。
 お互い、はぁと大きく息を吸い込んで。
 息が吸えないくらいキスに没頭するのは、やっぱり、駄目。学校でするのは禁止にしよう。
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