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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

 先週、私は自分のことでいっぱいだったので、今週からは少しは周りを見ることができそうだ。

 手始めに、稲垣くんと長尾さんの様子に目を配ってみると、確かに二人は仲が良さそうに見えた。二人は一年を担当しているので、そう見えるのかもしれない。
 けれど、二年担当の里見くんと千葉さんはそこまで仲がいいように見えないので、やはり「昔付き合っていた」からこその親密さなのではないかと思う。

 昔付き合っていた同級生の彼女と、昔好きだった年上の教師――どちらのほうが付き合いやすいか、どちらのほうが口説きやすいか、現実的に考えると答えは簡単だ。

「しのちゃん、ごめん。先週カッコつけて送っていくって言ったけど、今週からは難しいかも」

 三時間目、私が空き時間に職員室に戻ったタイミングで、稲垣くんが会議室からやってきた。
 律儀だなぁ、と思って苦笑する。

「構いませんよ。これから忙しくなりますしね」
「……うん、ありがと、ごめんね」

 人の心は移ろいやすいものだ。若いと特に。
 二十二歳は若い。
 流されることもあるし、二つのものの間で揺れて悩むこともあるだろう。そういうものだ。
 いっぱい悩んで欲しい。それが成長に繋がるのだから。
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