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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第9章 しのちゃんの受難(五)

 一日が終わるのは早い。

 いつの間にか授業が終わり、誰もいない部屋に帰り、ご飯を食べて眠る。教師になってから、その繰り返しを苦痛に思うことはなかったし、それが普通だと思っている。
 友達の毎日も似たようなものだと、たまの飲み会で聞いていたから、社会人というのは皆こういう生活なのだろう。
 たまに礼二に会うのが、私にとっての非日常だった。


 刺激に飢えていたのか、朝、国語準備室で里見くんと交わす会話とハグは、それなりに心地いいものであった。
 背徳感がつきまとうのは仕方がない。職場で抱き合うなんて、初めてのことなのだから。
 里見くんからのキス攻撃を回避しながら、コーヒーを飲み、授業の準備をする。そんな朝だ。

 里見くんの教育実習が終わればこの毎朝の習慣がなくなり、寂しくなるのは目に見えている。
 他人の温もりに慣れきってしまうわけにはいかないと自制する。


 火曜日、里見くんは百人一首部に来たけれど、木曜日は来なかった。
 その日あった総合的な学習の時間、里見くんは「大学生活」を議題に選んで、生徒たちに受験とその先の生活について授業をした。
 その、生徒の書いた感想文の確認と、反省点を佐久間先生と話しているのだと判断した。

 その時間は私も副担として、教室にいた。
 数学ではなかったせいか、教育実習生ではなく「大学生」としての「授業」のように感じた。
 題材から「講義」のようにするのだと思っていたから、生徒たちに質問し、質問を受け付けながら話を進める展開に驚いたくらいだ。
 一応、朝の段階で略案をもらっていたけれど、略案通り、脱線しすぎることはなく、生徒の反応も悪くはなかった。
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