この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君がため(教師と教育実習生)《長編》
第10章 しのちゃんの受難(六)

「いつもスニーカーだから靴ズレしちゃいました」
「帰ったら手当てしましょうね」
「でも、どうして迎えに?」
「雨も降っていましたし、荷物もあると思いましたので。さすがに、靴ズレを起こしているとは思いませんでしたが」
私は軽い誕生日プレゼントと傘だけ。里見くんの気遣いに、本当に嬉しくなる。
「帰りの時間伝えていましたっけ? 待ちました?」
「待つのは得意なので、大丈夫です」
「寒くなかったですか?」
里見くんは一瞬の間のあと、ふ、と笑みを浮かべる。
「暖めてくれるんでしょう?」
ぶわっと体が熱くなったのがわかった。
独身寮まで、あと数十メートル。
「待っている間、楽しみで仕方ありませんでした」
ガラガラとスーツケースの転がる音が狭い道路に響く。ストッキングが雨に濡れる。
独身寮まで、あと十数メートル。
「小夜をどうやって気持ち良くさせてあげようかな、とか」
傘に弾かれた雨粒の音が頭上で響く。それ以上に里見くんの甘い言葉が頭の中を侵食してくる。
独身寮まで、あと数メートル。
「小夜はどんな声で啼いてくれるのかな、とか」
あたりを見回して、エントランスにも道にも人がいないことを確認する。
独身寮に、着く。
「小夜はどこが気持ちいいのかな、とか」
エントランスのロックを外し、郵便受けのものを取り出す。
部屋まで、あと三階。
「小夜はどんな味がするのかな、とか」
閉じた傘から水滴がポタポタ落ちる。エレベーターは二人を乗せてぐんぐん上っていく。
部屋まで、あと一階。
「小夜はどんな体位が好きかな、とか」
エレベーターが三階に着く。ガラガラと音が響く。
部屋まで、あと十数歩。

