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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)

「私の名誉のために訂正しておくと、社会人なら誰でもいいわけではありませんし、同意があるからといって、出会ってすぐにベッドインしたこともありません。浮気をしたことも、体だけの関係を続けたこともありません」

 一途だった、と思う。私は、礼二に対して、一途だった。けれど、礼二にとっては、真面目すぎて冒険心もない、面白味も何もない女だったのだろう。

 私が先に「教師」になってしまったことも、きっと別れの原因の一つだ。
 礼二も教師を目指していたけれど、採用試験には何年も受からず、塾講師のバイトを続けるしかなかった。彼女は夢を実現させ忙しくしているのに、自分はまだ夢を追いかける日々――鬱屈した気持ちが澱のように溜まっていくのは、想像するに難くない。

 だから、彼はスリルとストレスの解消を求めた。私以外の女を作って。私にないものを求めたのだ。

「でも、真面目すぎたり、人を信じすぎたりするのも駄目ですよ。すぐ絆されて、騙されてしまいますから。……ということで、人を信じて騙されて、天皇の地位を捨てさせられた花山院の出家の続きから」

 生徒たちは「え、その流れで!?」という顔をして、大慌てで教科書をめくる。高校二年生にとっては、つまらない話だろうとは思う。『大鏡』も、私の話も。

 信頼していた人に騙されたと知って花山院は泣くけれど、私は一滴も涙が出なかった。きっと、ずっと前から、愛も情も枯渇してしまっていたのだ。自覚すらしていなかったけれど。

 この、渇ききった心に、誰か水を与えて欲しい。
 相手を想って涙が出るまで、誰かを愛してみたい。
 そして、愛されてみたいのだ。
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