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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第12章 しのちゃんの受難(七)

「……ほ、他には?」
「教えるわけないでしょ。気づいたら、正解か不正解かを伝えるよ」
「うわぁ……知らないのは私だけだったのか」

 頭を抱える。
 いつの間にか、逃げ場がなくなっていた。それはとても恐ろしい侵食。自覚がないのに、蝕まれているようなものだ。
 宗介はガン細胞か何かか?

「……好きなんだ、それだけ」

 ハンバーグを食べ終えて、エビフライをナイフで切っている宗介が、ぽつりとこぼした言葉。
 たぶん、その言葉だけを頼りに、彼は今まで突き進んできたということなのだろう。

 好きな人を手に入れたい――。

 その想いは私にもよくわかるから、否定しないし、できない。
 好きな人を手に入れるための行動を間違えることもあるだろうけれど、宗介は、私に気づかれることなく行動していた。私が気づいていたら、宗介をストーカーだと思っていただろう。たぶん。

「……ありがとう」

 宗介を非難する言葉はない。
 確かに彼の愛情は重いけれど、まだ、心地よい重さだ。束縛が酷いというわけでも、嫉妬深いというわけでもない。
 ただ、ちょっと重いだけ。たぶん、ちょっと。

「ありがとう、宗介」

 重い愛を、どうすれば受け止められるだろうかと考える。受け取った愛はやっぱり同じだけの愛として返さないといけないのだろう。
 宗介は、たぶん、それを望んでいる。


 由良の門を 渡る舟人 かぢをたえ ゆくへも知らぬ 恋の道かな


 櫂(かい)をなくして、舟が行き先を決めることなくゆらゆら漂っている。それはまるで、私の恋の行方のよう。


 ――どこへたどり着くのやら。


 できるかな、私に。
 こんなにも深く深く愛してくれる人を、どう導いていこう?
 難問は、出てきたばかりだ。
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