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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第12章 しのちゃんの受難(七)

 雨が降る。
 窓から離れている個室には、しとしとと雨粒が地面を打つ小さな音だけが聞こえてくる。例年より少し遅い梅雨入りのような気がする。

「はい、どうぞ」

 ブレンドコーヒーと共に置かれたイチゴのショートケーキ二つに、宗介が目を丸くする。
 一つには小さく細いロウソクが刺さっており、おばさんがライターで火をつける。

「おばさん、ありがと」
「いえいえ、いいのよ。娘の友達の無茶振りには応えてあげなきゃね。もちろん、お代はいただくけど」

 昨日、予約を入れたときに、ケーキをお願いしておいた。おばさんは「じゃあ一華堂のケーキを買ってきてあげる!」と朝から有名菓子店に並んでくれたのだ。手間賃も会計のときに上乗せしよう。

「一日遅れたけど、誕生日ケーキね」

 一本しかないロウソクの火が揺れる。ショートケーキだから、さすがに二十二本も刺したくはない。
 私は小声で歌を歌う。

「……ハッピーバースデー、トゥーユー。じゃあ、宗介、どうぞ」

 フゥ、とロウソクの火が消える。パチパチと小さく拍手をすると、奥から同じように二人分の拍手と「おめでとう」という声が聞こえた。

「ありがとうございます」

 奥の二人にも聞こえるように礼を言ったあと、宗介は照れているのか、視線を少しさ迷わせる。

「久しぶりだなぁ、こんなふうにお祝いされたの」
「家では祝ってくれないの?」
「いや、祝ってはくれるけど、妹も中三だし、嬉々として歌を歌うような感じでは、ないかな」
「……中三。私も歳を取るわね」

 小学生だった子が受験生とは。六年の歳月は恐ろしい。子どもはあっという間に大きくなる。
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