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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
「篠宮先生、ちょっと」
職員室へ向かう途中で、誰かに呼び止められる。緊張しながら振り向いたのに、その顔を視界に入れた瞬間にほっとする。
「玉置学園長代理」
「今日一時間目は空き時間でしょ? 学園長室で待っています」
「はい」
何かやらかしたかなーと、軽やかな足取りの親友の後ろ姿を見送る。彼女が嬉しそうに歩いているときは、何かしら悪いことがあるときだ。もちろん、我々教師にとって悪いこと、の意味だ。
玉置梓とは、私がこの学園に入ったときからの腐れ縁。私は高等部からの編入生だったので、もう十年以上の付き合いになる。
大学付属の中高一貫校への編入は大変だったが、入ったらもっと大変だった。今までの常識は通じないし、「学園内の常識」がないせいで、多少の嫌がらせもあった。同級生に変わり者の学園長の孫がいなければ、私の学校生活は破綻していたと思う。
梓がいろいろ手を回してくれたおかげで、私の高校生活は平穏だった。彼女にはとても感謝している。
梓は誠南大学経営学部へ進学し、卒業後はアメリカでMBA――経営学修士を取得した。そして、帰国後、学園長代理の地位におさまった。それが昨年度の話。
若い学園長代理だけど、彼女の品行方正かつ勤勉な高校生時代を教師たちのほとんどが知っているので、疎ましく思われることなく、むしろ先生方は梓をよくサポートしているのではないかと思う。
学園長の子、つまりは梓の両親が学園の経営に関わらずに喫茶店をやっている以上、梓は未来の学園長だ。無下には扱えない。