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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)

「で、ようやくあの男と別れたの?」
「んぐ」

 梓、私たちは仕事中だよ。そんな、居酒屋でするような会話は、この革張りの応接椅子に座ってやることじゃない。
 クッキーを紅茶で流し込み、ふぅと一息つく。

「別れたけど、仕事の話じゃないの?」
「よかった。仕事の話もするわよ」

 梓は大学時代に紹介したときから、礼二のことを嫌っていた。何がそこまで梓を駆り立てたのかはわからなかったけれど、早く別れろと会うたびに言われていたものだ。

「あいつの浮気相手が本気になってきたから、身を引いたの?」
「ま、まぁ、そんなとこ」

 図星すぎて肯定するしかない。梓、怖い。彼女の目は千里眼か?

「ちょうど良かった。いい見合い話があるんだけど、会ってみる?」
「いや、いいよ。それより、仕事の話って?」
「そう? じゃあ仕事の話ね。実習生の里見宗介がクマ先生の後任に立候補してきたんだけど、どういう生徒だったか知っている?」

 梓は昨年度より前の学園のことを知らない。里見くんのことを知らないのも当然だ。
 なるほど、そういえば里見くんは「学園側にも手回しをしている」ようなことを言っていた。実権を握っている梓にアプローチしていたとは、なかなか就活頑張っているじゃないか。
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