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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
里見くんが佐久間先生の後任に相応しい人物か――玉置学園長代理から判断するように言われたけれど、私が里見くんの様子を見ることができるのは、ホームルーム・放課後くらいしかない。
佐久間先生に授業があるときは必ず見学しているし、佐久間先生の空き時間には他の先生の授業や他の教科の授業の見学をするはずだ。もしくは、教材研究や、指導案の細案を作っているかもしれない。
結構、里見くんと接触があるようで、ない状況に、私はほっとしている。
『俺は小夜先生のことが好きです。俺が教師になれたら、結婚してください』
そういえば、礼二にすらされなかったプロポーズを、昨日、里見くんからされたんだった。今さらながら、恥ずかしくなってきた。
五歳も年下の男の子に口説かれて、それを本気にしているなんて、なんてめでたい女なんだろう――。
浮き足立って、馬鹿みたい。
あぁ、でも、里見くんが本気だった場合、私が梓に報告する結果次第では、その可能性の芽を摘み取ってしまうことになるのではないか。
私が里見くんの気持ちに応えたくないから、「里見宗介は学園には必要ない」と結論づけることだってありえるのに。なんて恐ろしい刃を私に持たせるのだ、梓も里見くんも。
「気乗りしないけど、やれるだけやってみるしかない、か」
一人の人生を円満なものにするのも、握りつぶしてしまうのも、私の手のひらにかかっているのなら、とことん向き合おう。
そう思いながら、梓がくれた資料に目を落とすのだった。