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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)

「顔、上げてくださいよ、小夜先生」
「駄目です」
「なぜ?」
「……真っ赤なので」

 そうだ、真っ赤だ。自分でも不思議なくらい、熱が顔に集まっている。
 そんな、茹でダコみたいな顔を、見られたくない。恥ずかしすぎる。

「じゃあ、ずっとこうしていましょうか? 俺は構いませんけど。先生は困りますよね。仕事、できないですよね」
「……」
「仕事ができないどころか、生徒や先生が入ってきたら大変ですよね。一応、ここは入口から死角にはなっていますけど」
「……」
「あー……その椅子、なんか、ベッドが軋んでいるみたいでエロいですね」
「っえ?」

 思わず立ち上がってしまう。
 瞬間、私の体はまた、里見くんの腕の中。

 私は馬鹿なのか?

 ずるい。なに、この緩急のつけ方。なに、この攻略方法。

 逃げようともがいても、里見くんの腕はビクともしない。
 シャツ、薄くて、厚い胸板だなとか、意外とがっしりした体格なんだなとか、ちょっと汗臭いなとか、ダイレクトに伝わってきてしまう。

「……小夜先生、もう少しこのままで」
「駄目、です」
「『淫乱という言葉は、大人の女性にとっては褒め言葉になるのか』と、五組の子から聞かれました」

 真っ赤だった顔が一気に青ざめていくかのような、体温の変化があった。
 血の気が引いていく。
 逃げようとしていた体が、仕事を放棄する。力が抜けそうになる。

「……なんて、答えたんですか?」
「『そんなわけあるか。それは年齢関係なく、すべての女性を傷つける言葉だ』と答えておきましたが、間違っていましたか?」
「……いえ」

 大丈夫、だと言い聞かせる。私は大丈夫。なんて言われても、大丈夫。

「五組の生徒は幼稚ですね」

 里見くんは、ぎゅうと私をきつく抱きしめる。私の体が震えているのに気づいたのかもしれない。
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