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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
「俺よりも、孝乃ちゃんがものすごく怒っていました。ちょっと意外でしょう?」
「内藤さんが?」
「すごい形相で、誰が言ったのか問い詰めていましたよ。犯人がわかったら、殺しに行きそうな剣幕でした」
明日にでも内藤さんにフォロー入れておかないと。そこまで怒ってくれるなんて、本当に意外だ。
「すみません、俺のせいですね」
「……本当に」
「責任、取りますよ。小夜先生をお嫁にもらいます」
「あの」
「お嫁に来てくれませんか?」
そこで「じゃあ責任取って嫁にもらってください」と言うほうが、淫乱ではないの? 見境なしに手を出す教師の図、ではないの?
「行きません」
「残念です。こんなに好きなのに」
あまり残念ではなさそうに、里見くんは笑った。吐息が耳にかかってくすぐったい。
あぁ、駄目だ。
他人の体温を気持ちいいと思えてしまう、この時間が、怖い。
「好きだ」「かわいい」なんて、長らく言われていなかった言葉。
「嫁に来てくれ」なんて、初めて言われた言葉。
こんなふうに、慈しむように抱きしめられたのは、何年ぶりだろう。
少なくとも、最近ではない。
里見くんは、一体、何なの。
私をどうしたいの。
「小夜先生」
「……何ですか?」
「俺とどうにかなるのが嫌なら、ずっと拒否してください。それが小夜先生の考えなら、尊重します」
え、あ、はい。わかりました。
「でも、覚えていてください。俺は」
背中を滑る指の感触。
吐息に混じる熱。
苦しいほどに早鐘を打つ心臓は、私のものか、彼のものか、それすらも定かではない。
逃れたいのに、逃れられない。
聞いちゃ駄目だとわかっているのに。
「――俺は小夜先生が欲しい」