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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第3章 しのちゃんの受難(二)
「欲しいのは小夜先生のぜんぶです。体だけだと思わないでくださいね。あなたのぜんぶが欲しいんです」
宣誓か、宣言か。
私はしっかり覚えている。里見くんは、有言実行の子だ。
「古典と現文で模試の点数を二割上げます」と宣言し、実際次の模試で国語の点数を上げてきた。目標を達成するための努力は、人一倍する生徒だった。
私は、そういう子に、好かれてしまったのだ。
「まずは心から手に入れたいと思うので、とりあえず三週間逃げ切ってみてください。追いかけますし、先生を振り向かせる努力は惜しみませんから」
「は、はあ……」
「三週間後に先生がまだ俺を好きになっていなかったら、夏休みにまた来ます。それで駄目なら、卒論の合間を縫って来ます。まだ駄目だったら、教師になってからも先生を口説くので」
何ていうか……とても、必死なんだな、とふと思う。
里見くんは必死だ。
すごく、余裕があるのではないかと思っていたのに。いや、少なくとも私よりは余裕があると思っていたのに。
腕の震えに、気づいてしまった。
「里見くん」
「はい」
「余裕、ないですか?」
「あるわけないでしょう。六年越しの想いが溢れるばかりで、本当は先生を抱きしめるのも、触れるのも、汗びっしょりですよ。俺だって、真っ赤なんですよ。だから、抱きしめて、顔を見せないようにしているのに」
顔を上げようとすると、「キスしますよ」と低い声に牽制される。
本当かどうか確かめられなくても、たぶん、本当だ。里見くんの体、とても熱いから。
だから、私はようやく、ほっとした。
あぁ、里見くんだ。私の知っている、里見宗介くんだ。